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名古屋高等裁判所 昭和55年(ネ)112号 判決

控訴人・附帯被控訴人(被告) 鈴鹿市

被控訴人・附帯控訴人(原告) 山本和子

主文

原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求及び附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人」という。)は、主文同旨の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)は、「本件控訴を棄却する。原判決中、被控訴人の次項の請求を棄却した部分を取り消す。控訴人は、被控訴人に対し、金三五万七五八〇円及びこれに対する昭和四七年七月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決並びに本判決及び原判決につき仮執行宣言を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示(ただし、原判決書一九枚目裏九行目中「認ある」を「認める」に改める。)と同一であるからここにこれを引用する。

一  被控訴人の主張

被控訴人の担当職務内容は、消防予算に関すること、そのうちには歳入歳出予算見積書の作成、予算整理簿の作成等主務課長の職務に属するものが含まれるし、また消防経理、文書の収受発送、職員の出張整理に関することなど、高度の知識又は経験を必要とする職務ということができ、被控訴人は、右職務を誠実に遂行してこれをまつとうし、業務の過誤もなかつた。また予算編成や決算時期には超過勤務し、他の職員の職務遂行に協力し、湯茶接待を含む雑用も引き受けて来た。協調性や指導力もあり、勤務態度が良く仕事熱心であつた。そして、被控訴人は、昭和四五年四月に四等級へ昇格した男子職員よりも良好な勤務成績を示し、上司同僚から有能な人物として評価されていた。ちなみに、昭和四六年四月実施の昇格者選考にあたり、川北芳一消防本部次長は消防長に対し、被控訴人を昇格候補者にあげるように上申したほどである。

二  控訴人の主張

控訴人が昭和四五年四月に被控訴人を四等級へ昇格させなかつたのは、被控訴人の職務内容をはじめ勤務成績、能力、適性等に基づき裁量的に判断したためであつて、女性であることを理由にしたものではない。すなわち、被控訴人は、職場で協調性がなく、担当職務だけを処理して他の職員に協力しようとしなかつたし、上司の忠告に耳を貸さないうえ職場規律を保たれないような言動に出るし、繁忙期にでも休暇をとり、またその性格は狭量で素直さがなく強情一徹であるなど、職務に対する熱意、指導力、協調性といつたものに欠け勤務態度も悪くて、とても良好な勤務成績とはいえなかつた。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一  本件訴えの適法性に関する当裁判所の判断は、原判決理由中原判決書二六枚目表二行目から同裏一一行目までの説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

二  成立に争いのない乙第一号証の一、二、第二、第三号証、第四号証の一ないし四、第二七号証、並びに原審及び当審(第一、二回)における被控訴人本人尋問の結果、並びに同供述により成立を認める甲第一六号証、第一一九号証により認められる被控訴人の経歴及び控訴人の消防職員の給与制度は、次につけ加えるほか、原判決理由中原判決書二七枚目裏六行目から同三一枚目表三行目までの説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決書二八枚目表一一行目中「又は調整」を削り、同裏三行目中「ろによる。」の下に「すなわち、消防組織法一四条の四は、消防職員の任用、給与等につき原則的に地方公務員法(以下「地公法」という。)の定めるところによる旨規定し、地公法二四条は給与等に関する根本基準として、「職員の給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならない。」(一項)と規定して職務給の原則を掲げ、次にいわゆる均衡の原則を掲げたうえ(三項)、職員の給与は条例で定める旨(六項)を規定し、そして同法二五条は、給与は給与に関する条例に基づいて支給されなければならないこと、及び給与に関する条例中に給料表を規定すること等を規定し、給与条例主義を謳つている。控訴人は、右法条に基づいて鈴鹿市職員給与条例及び鈴鹿市職員の初任給、昇格、昇給等の基準に関する規則を制定している。」を加える。

2  同二九枚目表四行目中「昇格、職員」を「昇格 職員」に改め、同三〇枚目表四行目中「原告」の下に「ら消防職員」を、同行中「については、」の下に「等級別標準職務制を根幹にすえた」を、同七行目中「たてまえとし」の下に「、そのほかたとえば四等級の標準的な職務内容欄に定める「特に高度の知識又は経験を必要とする困難な業務を行なう吏員の職務」のように、一義的に法定せずに職員の具体的職務内容に即して任命権者の裁量的判断に委ねる場合も含まれ」を加える。

三  公務員の勤務関係における昇格は、もともと任命権者に認められた権限であつて、公務員には昇格を求める請求権は存しないものであるから、特定の公務員が昇格を受けなかつたからといつて、その者の権利が侵害されるものではない。また昇格が行われるために一定の資格を必要とされ、それが充足されたからといつて直ちに昇格が実施されるものではなく、昇格が行われることを期待することができる地位を取得するにすぎず、このように地位を取得したからといつて昇格する権利が保証されるものでもない。ただ、昇格に関し、これを受けなかつた者が任命権者の行為を違法としてその所属する国又は公共団体に損害賠償を求めることができるのは、任命権者において何ら法的に合理的な理由もなく、恣意的に社会観念上著しく昇格に関する裁量権限を濫用して昇格を行わなかつた場合、違法としてこれによつて生じた損害賠償義務が認められるものと解するのを相当とする。以下その違法性の有無につき検討する。

四  昇格は、任用上の昇任に相当するものであつて、ことに等級別標準職務給のもとでは昇任されて上位の職にある者のうちから選考して昇格させる、というのが本来の姿である。したがつて、昇任を経ないで昇格させる場合にあつては、できる限り地公法上昇任に関して定められた規定や法原則を遵守して選考をすべきであつて、なかでも任用の根本基準である同法一五条に則り同法一三条、五六条の各規定に従うことは不可欠である。ふえんすれば、任命権者が職員を昇格させるにあつては、等級別標準職務表に準拠したうえ、職員の勤務成績その他の能力の実証に基づき、これに公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の目的に照らして裁量的判断を加えて行うものとし、なおその際には、信条、性別、社会的身分等による不合理な差別や正当な職員団体活動等を理由とする不利益取扱いをしてはならない。そして、原審証人森田等、同酒井幸生の各証言に徴すると、控訴人においては、職員について地公法四〇条に定める定期的勤務評定や能力実証のための競争試験を実施していないことが明らかであるから、右にいう職員の勤務成績や能力の実証を認定し判断するにあたつても、あらかじめ評定要素を定型化した項目に即した段階的評定を行うのでなく、任命権者に対し広範な裁量的判断をもつて適宜包括的合理的な方法で評価することを任せていたと見るほかはない。

そして、以上の原則は地公法上の強行法規に基づくものであるから、これに抵触する内容の選考基準や当局と職員団体間の書面による協定が定められたとしても、規範的効力を認めることはできない。

五  被控訴人は、控訴人の公権力行使における違法の内容として、昭和四五年四月に職員の昇格を実施するにあたり、すでに鈴鹿市職労との協定により、五等級一六号給以上の号給を受けていた者について特段の障害事由がない限り四等級へ昇格させるとの運用基準を立てこれに基づく運用をしていたところ、五等級一九号給を受けていた被控訴人につき四等級へ昇格させなかつたのは、被控訴人が女子であることを理由として選考しなかつたものであるから、その不作為は地公法一三条に定める性別による差別的取扱いの禁止に違反したものである旨主張する。そして、被控訴人の職が、等級別標準職務表において四等級の標準的な職務内容として定めるもののうち、「係長又はこれに相当する職務」「出先機関の長の職務」に属していないことは文理上明らかであるから、要するに「特に高度の知識又は経験を必要とする困難な業務を行なう吏員の職務」に適合すると判断すべきであつた。つまり控訴人は、右協定及び運用基準に基づき右適合の判断をする義務があるのに、それに違反し性別による差別的取扱いとして不適合判断をし、被控訴人を昇格させなかつた不作為をもつて、第一次的に違法を主張するものと解されるので、以下これにつき判断する。

1  控訴人が昭和四五年四月に職員の昇格を実施した際、被控訴人主張の内容による協定や運用基準が定立されておりこれに基づく運用が行われていた事実については、被控訴人の援用する前掲被控訴人本人尋問の結果及び同供述により成立を認める甲第二号証の三、第三五号証の一、二、第三九号証の一ないし三、第四六号証、第六二号証、並びに原審証人鈴木道子、同川合重雄の各証言に徴しても認めるに足らないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえつて、原審証人森田等、同酒井幸生の各証言によると、被控訴人主張の右事実のなかつたことが認められる。そして、この事情は控訴人が昭和四六年四月に職員の昇格を実施した際においても同様であつた。

すなわち、前掲各証拠及び前掲被控訴人本人尋問の結果により成立を認める甲第四一号証、第五五号証、並びに弁論の全趣旨により成立を認める乙第一一号証、第三〇号証(被控訴人は、証拠抗弁として、乙第三〇、第三一号証、第三二号証の一ないし三、第三三号証、第三四号証の一ないし六、第三五号証の一、二の書証申出について、故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃防禦方法であるから、右書証申出を却下するように申し立てるが、右各書証の取調べにより訴訟の完結を遅延せしめるとは認められないから、被控訴人の右申立ては理由がなくこれを却下する。)によると、控訴人は、昭和四六年四月に職員の昇格を実施するにあたり、等級別標準職務表中の四等級の標準的な職務内容のうちで任命権者の裁量的判断に任せられている「特に高度の知識又は経験を必要とする困難な業務を行なう吏員の職務」について、右職務に属する者を五等級一六号給以上の号給を受ける者のうちから選考するとの運用基準を立て、これを鈴鹿市職労に対して提示したことがあり、そして同月に右号給に昇給が予定されている者も含めて右基準該当者について選考を行い、男子職員三七名(内一名が汚職に関係)中二八名及び女子職員六〇名中九名を四等級へ昇格させた事実が認められる。

右認定のように、控訴人が昭和四六年四月に実施した五等級職員の四等級への昇格においては、たしかに昇給者数の比率上では男子と女子の間に相当の格差があること、そして、男子職員に関して等級別標準職務制がかなりゆるやかに運用される結果となる観を呈しているが、しかしながらそれとしても汚職怠業等の障害事由のない限り一律に昇格させる程にゆるやかに運用していたわけでないし(この点は、前掲甲第四六号証中で、昭和四七年一〇月当時でさえ鈴鹿市職労が昇格基準の運用に関する改正要望として、「任命権者の認めるものは廃止すること」をあげていることからも裏付けられよう。)、また前掲証拠により認められる昭和四六年四月の昇格状況と昭和四五年一月及び昭和四七年一〇月の給料表に見る人員配置とを対比すると、昭和四五年四月実施の昇格において男子職員に関する等級別標準職務制の運用状況は、前示昭和四六年四月実施におけるほどはゆるやかでなかつたものと認められる。

なお付言するに、前示昇格に関する法原則に照らして、等級別標準職務表に適合しない等級への格付け、たとえば職務内容につき変更がないのにその者の属する職務の等級を一等級上位の職務の等級に格付けするような昇格の運用は適正といえないのであるから、ましてや被控訴人の主張する如く、当局が職員団体との間に締結した書面による協定に基づき、一定号給に達した職員を一律に昇格させる旨の選考基準を立て、それに従つた運用をするという事実があつたとしても(昭和四五、四六年に控訴人においてかかる事実のなかつたことは、前認定のとおりである。)、右基準は地公法に著しく違反するものとして規範的効力を生ずる由はない。

2  前掲乙第三〇号証、森田等、酒井幸生の各証言によると、控訴人が昭和四五、四六年に実施した五等級職員の四等級への昇格にあたり、標準的職務内容のうち「特に高度の知識又は経験を必要とする困難な業務を行なう吏員の職務」に属する者の選考にあつては、一六号給以上の号給を受けている者を候補者にあげて、各自について係長や出先機関の長とおおむね同等の職務内容と責任をもつて業務を処理している者あるいは係長に昇任させるにふさわしい者を指標において、その担当職務内容並びに研究心、熱意、正確性、迅速性、協調性及び企画力、指導力、判断力等の管理能力にわたつて勤務成績や能力を判断するのであるが、その際に主として所属長から寄せられた資料や意見を尊重して審査することとし、まず職員課長において案件を調査し集約したうえ、これに総務部長、助役らが順次検討を加え、それらを経由して任命権者が裁量的判断をもつて適任者を選考すること、また控訴人においては、右職務内容につき裁量的に定めているうえ、勤務成績や能力の実証に関する認定判断さえも任命権者の広範な裁量的判断に任せる制度をとつており、これに公務の能率の維持及び適正な運営の確保の目的に照らして裁量的判断を加えるとすれば、右昇格者選考において任命権者に対し付与せられた裁量権はかなり広範囲にわたるものといわざるをえないところ、昭和四六年四月実施の控訴人の昇格運用を全般的に見る限り、任命権者が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱しこれを濫用したと認められないこと、以上の事実が認められる。なお、昇格者数の比率上で男子と女子の間に前示格差があることをもつて右認定を左右しない。

以上述べて来たところによれば、控訴人は、被控訴人が昭和四五年四月に五等級一九号給を受け昭和四六年四月に五等級二〇号給を受けていたことをもつて、かならず四等級へ昇格させなければならない作為義務を負つていなかつたのであるから、右作為義務を前提として右時期に昇格させなかつた不作為についてこれを公権力の違法な行使という被控訴人の主張は、理由がなく失当である。

六  被控訴人は、控訴人においては被控訴人について、勤務成績を良好と評定し能力の実証を優れていると認めながら、あるいはそのように判定すべきであつたのに、性別による差別的取扱いとして前示昇格させなかつた旨を、第二次的に公権力の違法な行使にあたる、と主張しているように解されるので、以下これを判断する。

前掲乙第三〇号証、成立に争いのない甲第七三、第七四号証、第七八号証の一、二、第七九号証、第八〇、第八一号証の各一、二、第八二、第八三号証、乙第一七号証、第二〇、第二一号証及び当審における被控訴人本人尋問の結果(第一回)により成立を認める甲第七〇号証の二、第八七号証及び同供述の一部(後記認定に反する部分は措信できないので除く。)、並びに当審証人近藤芳丸、同川北芳夫の各証言によると、被控訴人は、昭和四一年一一月五日控訴人消防本部庶務係に配置されて引き続き勤務し、その当時五等級一五号給を受けていたこと、同本部は、庶務係、予防係、消防係を置き(昭和四八年四月危険物係を増設)、消防長以下一一名が配置されて(昭和四七年一月、一二月に各一名、昭和四八年四月に三名増員)、内三名が庶務係に配置されていたこと、被控訴人は、同係の分掌事務のうち、消防予算、経理に関すること及び文書の収受発送、職員の出張整理に関すること等の事務を分掌していたもので、前任の事務員鬟谷せいの担当業務をそつくり引き継いでおり、要するに予算、決算の計数処理業務と支出負担行為、支出命令書の起案等庶務的事務を主体とする補助業務であつて、企画調整的なものは含まれていなかつたこと、所属長に相当する同本部次長は、昭和四五、四六年当時の被控訴人について、業務上の知識、判断力、正確さ、実行力等に関して良好と認めながらも、他方で熱意、受容性、協調性、指導性に欠けるうえ、いささか独善的で対人関係にも難があり管理能力が低いと認め、総じて勤務成績が良好と言えないし能力も優れているとは言えないと評定したのであるが、それでもなお昭和四六年四月の昇格実施に際しては、右良好と認められる点に注目して四等級への昇格候補者にあげられるように努力したこと、そして結果、任命権者である消防長においては、被控訴人について、その職務内容、勤務成績、能力の実証に徴したうえ、公務の能率の維持及び適正な運営の確保の目的に照らして裁量的判断をもつて、四等級へ昇格させることは適当でないと決定したこと、なお控訴人は、右昇格実施に際し、他部局において被控訴人と同種業務に従事し五等級一六号給以上の号給を受けていた男子職員一名、女子職員六名の全員について昇格させなかつたこと、昭和四六年四月昇格実施における消防長の右判断は、昭和四五年四月昇格実施においても同様であつたこと、以上のように認められる。なお、成立に争いない甲第二六号証、第五四号証、第八六号証の一、二によると、控訴人は、昭和四七年一二月一日被控訴人について、「職員として二〇年又は三〇年職務に精励し、その成績が良好なもの」にあたるとして表彰した事実が認められるが、弁論の全趣旨により成立を認める乙第二四号証の一、二及び原審証人森田等の証言に照らすと、右の表彰は、永年勤続職員を対象として行われるもので、これにいう成績良好が直ちに前示昇格者選考にあたつてしんしやくされる成績良好に該当するとは認められない。

以上の認定によると、控訴人が昭和四五年四月と昭和四六年四月に被控訴人を四等級へ昇格させなかつた裁量的判断について、任命権者である消防長において女子であることのみによつてあるいはその他恣意的に社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱しこれを濫用したと認められないから、右昇格させなかつた不作為についてこれを公権力の違法な行使という被控訴人の主張は、理由がなく失当である。

七  被控訴人は、控訴人において初任給、事務員の事務吏員への昇任、職員研修、雑用の下命、扶養手当の支給等に関して性別による差別的取扱いをなし、既婚婦人に対する昇格延伸をするなど、その人事政策の全般にわたつて性別による差別的取扱いをしており、昭和四五、四六年に被控訴人を昇格させなかつたこともそのあらわれである旨を主張し、前掲証拠に加えて、成立に争いない甲第二七号証の一ないし四、第四七号証、第六四号証、第七五号証、第八五号証の一、二、第九〇号証の一、二、第一二〇号証、及び前掲被控訴人本人尋問の結果により成立を認める甲第一二ないし第二五号証(原本の存在も含めて)、第二八号証の一、第三一、第三二号証の各一ないし三、第三三号証の一ないし六、第三四号証、第三九号証の三、第四八号証、第五〇、第五一号証、第五三号証、第六三号証、第六五号証の一ないし六、第七七号証の一、二、第九一号証、第九二号証の一、二、並びに当審証人佐野萬理子、同平井ひさの各証言を援用する。しかしながら、右主張及び立証を検討しても、五、六項記載の前示認定を覆えすに足りない。

なお、弁論の全趣旨によると、被控訴人は昭和四七年度昇格実施に関しても、昭和四五、四六年度におけると同旨の主張をしていると解されるが、これに対する判断も前示両年度昇格実施に関する判断と同じであり、右主張は理由がない。

八  そうすると、控訴人は、昭和四五ないし四七年度に被控訴人を四等級に昇格させなかつた判断につき裁量権の逸脱がないから、その余の点を判断するまでもなく公権力の違法な行使を認める余地もないことになり、国家賠償法一条に定める損害賠償義務の生ずる由がない。

次に、被控訴人は、第二次的主張として、控訴人に対し、雇用契約(労働契約)上の債務不履行責任を論ずるのであるが、控訴人と被控訴人との間には公法上の任用関係が成立し私法上の契約関係に立つものではないから、右契約責任を追及しようというのは主張自体が失当である。

結局、被控訴人の本訴請求は、理由がないから失当としてすべて棄却を免れないものである。

九  よつて、原判決中、被控訴人の国家賠償法一条に基づく損害賠償請求の一部を認容して、控訴人に対し金一四二万六一五〇円及び内金一〇二万六一五〇円に対する昭和四七年七月一四日から、内金四〇万円に対する判決確定の日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払いを命じた部分は不当であるからこれを取り消し、右取消しにかかる被控訴人の請求(第二次的主張としての債務不履行責任を含む。)を棄却し、その余の被控訴人の請求を棄却した部分は相当であつて、これに対する被控訴人の附帯控訴は理由がないから失当としてこれを棄却し、訴訟費用は第一、二審とも敗訴の当事者である被控訴人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 舘忠彦 名越昭彦 木原幹郎)

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